2017年06月13日(火)

第23回: 神の目からみた『バベルの塔』

第23回

神の目からみた『バベルの塔』

 ブリューゲルは、1世6紀ルネサンス期のオランダの画家で、知的で大胆な構図は、強い刺激になれた現代人の目にも新鮮です。
 『謝肉祭と四旬節の戦い』『バベルの塔』など40点ほどが残されていて、特に農民のさまざまな生活場面を驚くほど精密に物語風に切り取り、その風習、文化を正確に伝えています。
 『バベルの塔』はブリューゲルの代表作の一つです。人間が、天まで届く塔をつくって名を上げようとするのを神が怒って破壊するという旧約聖書の物語をモチーフにしています。神は、建物を破壊するだけではなく、そのような傲慢を二度と繰り返さないように、人間の言葉をばらばらにして、通じ合わないものにします。
 『バベルの塔』に描かれた人間は、ただの「点」のように見え、間近で見ても、そこに人間の営みがあるなどと思いもよりません。しかし、オペラグラスで覗くと、地上で働く農民、レンガを運び上げる労働者、塔を見学する身分の高い人、塔の途中につくられた教会に集う人々などが蟻のように描かれ、神の目に映った世の姿を見ることができます。
 塔にはネジ状に回廊が設けられ、巨大で無数の入り口があるのに、中は真っ暗で、使われている様子はありません。人はただひたすらレンガを高く高く積み上げていきます。そこに人の営みのむなしさを感じることも、果てしない夢を見いだすこともできるかもしれません。想像力と感性を遊ばせる「ゆりかご」のような絵です。
 『バベルの塔』は神の目で描かれたものかもしれませんが、ブリューゲルは、よく股の間に顔を入れて、世の中を逆さまに見ていたという証言があります。逆さまに現実を見ることで、当たり前の世界を打ち壊して、頭の中に異なる視点を組み直していたのかもしれません。
 その姿勢で死んだという説もあります。村の広場で、突然、股の間に顔を突っ込んで、キョロキョロ周りを見回している画家の姿は、絵以上に奇抜であったろうと思います。