第5回: 英国映画『炎のランナー』をともに駆ける
第5回 |
英国映画『炎のランナー』をともに駆ける
映画『炎のランナー』と聞いて、多くの方は、緊張感のある軽快なメロディーとともに、若者たちが走る姿を感動的に思い出すのではないでしょうか。舞台は、第一次世界大戦が終わり、世界が何とか平和を取り戻していた1920年前後。若者たちはパリ・オリンピックをめざしていました。
主人公の一人、ロナルドは、ケンブリッジ大学の学生でユダヤ人。ユダヤ人に対する世間の風当たりは厳しく、彼は、屈辱を感じながら成長します。恋人に、「なぜ走るの?」と聞かれて「ユダヤ人だから」と答えます。
彼は、マサビーナという老コーチに指導を依頼します。マサビーナも、イタリア系アラブ人として、白人社会で白眼視され、差別を受けて生きてきました。
もう一人の主人公エリックはひたむきな若い牧師です。彼は、なぜ走るのかと問われて「神の喜びを感じるから」と答えます。混乱の中国で生まれ、オリンピックが終わったら、再び中国に戻って、キリスト教伝道をめざす決意をします。
パリ・オリンピックで、2人は戦う予定でしたが、牧師のエリックは、予選が日曜日にあると聞いて出場を辞退します。日曜日はキリスト教聖公会の聖日で、労働もスポーツも禁じられています。英国皇太子から出場を懇願されても、彼は面と向かって、「王は神によってつくられたのです」といって拒絶します。
別の選手が、自分の競技(400m走)とリデルの競技(100m走)の入れ替えを申し出ることで、エリックはオリンピック出場を果たし、優勝します。その後、彼は中国で伝道中に亡くなります。
ロナルドもまた優勝します。その夜、老コーチのマサビーナと、たった二人、パリの場末の居酒屋で、店主に追い出されるまで、互いをたたえ合います。世界に復讐を果たした「永遠の夜」という感動が伝わってきます。その後、ロナルドは弁護士として活躍します。
この映画の魅力は、イングランドの重厚な建築物、スコットランドの美しい自然を背景に、2人の若者が歴史の荒波にもまれながら信念をもって走り、そして栄光を手にする感激を、ともに味わうことです。