第24回: 目覚めよ、「f分の1」の野生
第24回 |
目覚めよ、「f分の1」の野生
認知症グループホームで、薪ストーブを導入したら、入居者が、自然にその周囲に集まって、火を眺めるようになり、症状の安定が見られたそうです。認知症の人の感性は、「世間知」に毒されないだけに鋭いものがあります。炎の柔らかいゆらめきは自律神経に働いて、心をなごませる効果が実証され、「ろうそく療法」というものもあります。ろうそくの火をゆったり眺めたり、ろうそくの火で入浴したり、マッサージやアロマ療法に使われたりします。ヨーロッパでは、多くの家庭が人をもてなすとき、食卓にろうそくを灯します。
炎には、「f分の1ゆらぎ」があります。f分の1ゆらぎとは、物理学で発見されたもので、一定のリズムの中にある、小さく、不規則な「乱れ」をいいます。われわれ生き物の鼓動や脳派などのリズムに同調し、自律神経を整えて、鶏なら卵を多く産み、牛なら乳を多く出し、人の心を落ち着かせます。
f分の1ゆらぎは、風のそよぎ、波、雨、川のせせらぎ、鳥のさえずり、虫の声といった音だけではなく、炎、日光、月光、木の年輪、浜辺の風景など、自然界のあらゆるものに存在します。人工的なものでは、モーツァルトの楽曲、電車の心地よいリズムなどの中にあります。曼荼羅を見ると落ち着くというのも同じ原理かもしれません。
しかし、現代文明は、f分の1ゆらぎを感じる時間と能力を人間から奪っています。現代人の脳は、f分の1をカクテルのように味わう感性を失い、日常的に電力をいっぱいに使って、「ドーパミンのシャワー」の興奮を求めて、テレビ、スマホ、PCなどをオンにします。これらには強いブルーライトの刺激があり、目だけでなく自律神経を害することが報告されています。
旅に出ないまでも、生活の中にf分の1を見つけることはそれほど難しいことではありません。しばしブルーライトを消し、ゆっくり呼吸しながら、目と耳を棲まし、f分の1ゆらぎを感じることも、アンチ・エージングの楽しみ方の一つではないでしょうか。