第22回: 80歳以上の人と会話を楽しむ方法
第22回 |
80歳以上の人と会話を楽しむ方法
80歳以上の人と会話を楽しむことはとても貴重な経験です。この世代にとっても脳を活性化するチャンスです。話のきっかけは、「終戦の日に何をしていましたか」が適当であると思います。戦争の話を極度に嫌う人がいますから注意します。しかし、戦争の話を嫌う人は、非常にまれで、年月とともに記憶が枯れ、振り返りやすくなっています。
「終戦の日の体験」から、時間をさかのぼることもできるし、戦後に進むこともできます。重い体験であればあるほど、聞く側も真剣に受け止める必要があります。記憶は厚いほこりをかぶっています。それを磨くことは、話す側と聞く側の協働作業です。「うなずき」と「うながし」を工夫します。
80歳前後であれば、終戦当時は子どもですから、疎開、空襲、防空壕、小学校、お弁当、遊び、家や近所の様子、父母の思い出など、抵抗なく懐かしむ人が多いと思います。90歳前後であれば、女性なら女子挺身隊、男性なら従軍体験の人が増えます。思わぬロマンスが聞けるかもしれない。大陸からの引き揚げなど、心臓に刺さったとげのような体験を語る方もいます。
わからないことは何でも聞き返します。多少、認知機能が低下している人でも、この時代の記憶は驚くほど鮮明です。記憶にぶれがあって、錯綜しているようなら、敬意をもって少しずつ修正します。知ったかぶりは厳禁です。「同じ話ばかり」というときは、相手の言葉から話題を変えます。
戦争は、これらの人の記憶の片隅に風景、音、肌触り、匂い、味覚としてありありと横たわっています。歴史であると思っていたものが、それらの人の心の中に連綿として生きながらえ、呼吸しています。記憶の底から、歴史のいのちを探り出すという作業は、誰にでもできることですが、逆にそれをしなければ、共有すべき記憶が日々失われていきます。
生きた歴史は、奈良やフィレンツェだけではなく、隣にいるおばあちゃんの心の底に深々と眠っています。